ライフステージに応じた健康課題
女性はライフステージに応じて、女性特有の様々な健康課題をかかえます。
■ 思春期・若年期
- 月経不順、月経困難症、PMS(⽉経前症候群)
- 低栄養・ダイエット志向による健康リスク(骨粗しょう症、貧血など)
■ 妊娠・出産期
- 妊娠・出産と仕事の両立(つわりや体調不良時の配慮不足)
- 不妊治療と就業の両立
- 妊娠・出産に伴うメンタルヘルスの不調(マタニティブルーや産後うつ)
■ 子育て期
- 育児と仕事の両立による過労、睡眠不足、慢性的疲労
- 時間的・心理的負担によるメンタル不調
■ 更年期(40代~50代)
- 更年期障害(ホットフラッシュ、不眠、気分の変動)
- 症状の個人差が大きく、職場での理解不足が課題
また心理的な面としては、男性と同様に、
- 長時間労働、過重労働による疲労・ストレス
- 管理職や責任あるポジションでのプレッシャーや孤立感
などがあげられますが、女性特有の心理的ストレスとして
- ハラスメント(セクハラ・マタハラなど)の精神的影響
- ライフイベント(妊娠・育児・介護など)の多重負担によるストレス
- 働き方の柔軟性不足により感じる無力感や焦燥感
なども、男性に比べていまだ女性のほうが比重が大きいのが現状です。
女性ホルモンの変動
女性の健康は、女性ホルモンの変動による影響を大きく受けています。
女性ホルモンには、卵巣から分泌される「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種のホルモンがあり、排卵や月経をコントロールするだけでなく、以下の様な色々な働きや影響を与えています。
エストロゲン | プロゲステロン |
・子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする ・卵巣内の卵胞を成熟させ排卵に備える ・乳房を発達させて女性らしい体をつくる ・自律神経を安定させる ・骨量を保持する ・血管をしなやかに保つ ・コレステロールのバランスを整える ・肌のつややハリを保つ |
・妊娠の成立に向け子宮の働きを整える ・乳腺の発達を促す ・体温を上げる ・食欲を増進させる ・むくみやすくなる ・眠気やイライラなどが起こりやすくなる |
この2つの女性ホルモンは、男性ホルモンの様に一定に分泌されるのではなく、月経や排卵に伴いおよそ1か月の周期で分泌量を大きく変化させるため、それに伴い月単位で体調の変動も起こっています。
例えば、月経前に眠くなったりイライラしたりするのは、プロゲステロンの影響があるからです。
女性ホルモンの変動は、このような1か月単位の変動だけでなく、月経がはじまる思春期、性成熟期、そして閉経を迎える更年期という様にライフステージごとにも大きな変動が起こり、それに伴い様々な症状や病気がみられます。
ライフステージの中でも、特に40歳代後半からはじまる更年期は女性ホルモンが急激に減少する時期であり、体調が大きく変化する時期でもあります。
このように、女性はホルモンの変動に伴い体調に大きな変化があるため、様々な不調を抱える可能性があります。
女性のホルモン変動に伴う不調は、仕事のパフォーマンスを落とし、キャリア形成にも影響を与える可能性があるため、症状を上手にコントロールしていくことが大切です。
このような不調については婦人科で相談が可能ですので、気軽に相談や治療が受けられるよう、「かかりつけ婦人科」を持っていただくと良いでしょう。
最近ではオンライン診療も利用可能になっています。お忙しく受診する時間がない方は、オンライン診療の利用もおすすめです。
月経による不調
思春期で初潮を迎えてから50歳前後の閉経までのおよそ40年の間、妊娠・授乳期での月経の休止期間を除いて月に一度訪れる月経。私たちが経験する月経は、生涯で450~500回と言われています。
平成30年の内閣府男女共同参画局の調査では、月経で何らかの不調を抱えている人は、20代で80%以上、 30代で70%以上との結果が出ており、月経で不調を感じている人がかなり多く存在することが分かります。
月経に伴う不調
月経に伴う不調には、月経困難症や月経前に起こる月経前症候群(PMS)があります。
月経困難症
月経に伴い、月経痛(腹痛)、腰痛、悪心、嘔吐、頭痛、頭重、食欲不振などの症状が起こり、強い症状のために日常生活に支障をきたします。
子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が月経困難症の原因となっている場合があるため、注意が必要です。
月経前症候群(PMS)
月経前の3~10日の間に起こる様々な心身の不快症状で、月経が始まると症状が軽快、消失します。
腹部緊満感・肩こり・頭痛・むくみ・体重増加・便秘等の身体的症状だけでなく、イライラ感・怒りやすい・無気力・集中力低下といった精神的症状も見られます。
症状の悪化には、ストレスも影響していると言われています。
月経に伴う不調は我慢せず、医療機関に相談を
働く女性の健康増進に関する調査(2018年)によると、45%が月経随伴症状や月経前症候群(PMS)によって仕事のパフォーマンス低下があると回答しており、仕事への影響も大きいことが分かっています。
これらの症状がキャリア形成の妨げにならない様、上手に症状をコントロールしていくことも大切です。
月経困難症や月経前症候群は、低用量ピルや漢方薬、生活改善などで症状の軽減が期待できます。つらい症状がある場合は我慢せずに婦人科へ受診し相談しましょう。
月経困難症には子宮や卵巣の病気が隠れていることもあるので、このような意味でも婦人科への受診は大切です。
忙しく受診の時間が取れない方は、オンライン診療なども上手に活用してみましょう。
妊娠・出産
妊娠・出産は病気ではないと言われますが、母体には非常に大きな変化が起こる時期でもありますので、体調の変化に注意し、無理をしないように過ごすことが必要です。
それでは、妊娠・出産期の心身の状態を見ていきましょう。
妊娠初期(~15週)
妊娠初期は、心身ともに大きな体調の変化が起こる時期です。
代表的な症状としては「つわり」があります。つわりが始まると、臭いに敏感になったり、吐気などの症状が起こります。このつわりの症状は多くが妊娠中期に入る前までには治まります。
また、ホルモンバランスの急激な変化から気分の変動が激しく、感情が不安定になりやすくなります。
さらにこの時期は、流産を起こしやすい時期です。過度な運動やストレスを避け無理をしないように過ごしましょう。
妊娠中期(16週~27週)
この時期は比較的安定している時期です。
胎児が大きくなってくるためお腹も目立つようになり、腰痛が起こりやすくなります
また血漿量が増加するため、貧血になりやすい時期です。動悸や疲れやすさを感じることもありますので、こまめに休息をとり無理の無いように過ごしましょう。
妊娠後期(28週~)
お腹の大きさがかなり大きくなります。このため腰痛がさらに悪化したり、便秘や頻尿になりやすく、胃が圧迫されるためにつわりの様な症状を感じることもあります。また夜間も熟睡できなくなり、疲れを感じやすくなりますので、無理をせずこまめに休息をとりながら過ごしましょう。
切迫早産等の危険がない場合は、過度な安静は避け、出産に向け散歩など適度に体を動かすようにしましょう。
産後
この時期は産褥期とも言われ、母体が妊娠前の状態に戻っていく時期です。ホルモンバランスが大きく変化し、母乳の分泌も始まります。
出産自体が母体に大きな負担をかけるため、この産褥期は決して無理をせず、育児もパートナーなどの協力を得ながら行っていくことが大切です。
この時期はマタニティブルーズ(情緒不安定、涙もろさ、抑うつ気分等)や産後うつになることがあります。気になる症状がある場合、早めに出産した病院や地域の保健師に相談するようにしましょう。
不妊治療
不妊とは
生殖可能な年齢にある健康な男女が、避妊することなく性交渉を行っているにもかかわらず、一定期間(約1年程度)妊娠しない状態のことを「不妊」といいます。
不妊の原因は女性だけでなく、男性側に原因があるケースも同程度と言われており、男女両者に原因がある場合もありますし、原因がはっきりしないこともあります。このため、不妊治療を行う場合はパートナーとよく相談して治療に取り組むことが大切です。
不妊治療
不妊治療では、まず一般不妊治療を行い、一般不妊治療で妊娠に至らない場合は生殖補助医療が行われます。
一般不妊治療
排卵日を予測して性交のタイミングを合わせる「タイミング法」、排卵日前後に精液を子宮の奥に注入する「人工授精」、内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵を起こさせる「排卵誘発法」等が行われます。
生殖補助医療
卵子を取り出して、体の外で受精(シャーレ上で受精を促す)させてから子宮内に戻す「体外受精」や卵子に注射針などで精子を注入する「顕微授精」などが行われます。
不妊治療の保険適用
令和4年4月から有効性・安全性が示された治療が保険適用の対象となりました。
タイミング法などの一般不妊治療や、採卵・採精から胚移植に至るまでの基本的な生殖補助医療が保険適用されています。また、生殖補助医療の「オプション治療」については、保険適用されたものや、「先進医療」として保険診療と併用できるものがあります。
不妊治療と仕事の両立のために
2021年社会保障・人口問題基本調査によると、現在4.4組に1組が不妊の検査や治療をしていると言われています。
不妊治療では月経周期や排卵の準備状態に合わせた通院が必要で、通院回数が多い上にスケジュール調整も難しく、働く女性の43%が仕事を辞めた、雇用形態を変えた、もしくは不妊治療そのものをやめてしまっている現状があると言われています。
最近では「不妊治療休職・休暇制度」や「治療費の補助・融資制度」など不妊治療に対する職場のサポートが行われているケースもありますので、不妊治療にあたっては、まず自分の会社の制度をよく調べてみましょう。
更年期
閉経と更年期
40歳代後半になると次第に卵巣の活動性が低下し、今まで規則的にあった月経が不規則になってきたり、経血量にも変化が見られたりします。そして、12か月以上月経が停止した状態を「閉経」といいます。
日本での閉経年齢の平均は49.5±3.5歳で、中央値が50.5歳となっていますが、閉経の時期は個人差が大きく、早い人では40歳台前半、遅い人では50歳台後半に閉経を迎えると言われています。閉経の前後約5年、およそ10年間を「更年期」といいます。
更年期に現れる症状
更年期には、エストロゲンの分泌が低下・消失することで、様々な心身の症状(更年期症状)が現れます。
更年期症状の出現には、性格や体質、職場や家庭での人間関係等の社会的因子が複合的に関係しており、症状の出方や程度には個人差が大きいと言われています。
更年期を迎えると、以下の様な症状や疾患が起こりやすいと言われています。
主な心身症状
ほてり のぼせ ホットフラッシュ めまい |
疲れやすい 肩こり 腰痛 動悸 |
関節の痛み 腰や手足の冷え しびれ 頭痛 |
主な精神症状
気分の落ち込み 情緒不安定 |
意欲の低下 不眠 |
イライラ |
これらの症状が重く日常に支障をきたす状態を「更年期障害」といいます。
更年期障害の治療
働く女性の健康増進に関する調査(2018年)によると、更年期症や更年期障害により仕事のパフォーマンス低下がある割合が46%となっており、仕事への影響も少なくありません。
更年期障害は治療により症状を緩和、軽減することができますので、つらい症状がある場合は、我慢せずに婦人科へ相談しましょう。
更年期症状の治療では、主にホルモン補充療法(HRT)や漢方治療、精神症状が強い場合は抗うつ薬や睡眠薬が使われたり、カウンセリングが行われます。
ホルモン補充療法では更年期症状の軽減だけでなく、骨量を増加させる効果や脂質代謝の改善、うつ症状の緩和や皮膚のしわを減らす等の心身両面の効果があります。
この治療では、わずかですが乳がんや静脈血栓塞栓症等のリスクが上昇したり、罹患している病気などによってはこの治療法が適応にならない場合がありますので、受診先の医師とよく相談して治療法を選択し、治療を進めていきましょう。
女性特有のがん
女性特有のがんには、代表的なものとして乳がん、子宮がん(子宮頸がん・子宮体がん)、卵巣がんがあります。
がんの多くは高齢になるほど罹患率が上がりますが、特に子宮頚がんや乳がんは20~30歳代という若い世代での発症が多いことが一つの特徴です。
このような傾向もあり、20代後半から50代前半までのがん全体の罹患率も女性が男性を上回っています。
乳がん
乳がんは日本人女性では一番多いがんで、30代から増加し、40代後半が発症のピークとなります。
乳がんの主な症状は乳房のしこりで、自己検診などで見つかるケースもあります。また乳房のくぼみ、乳頭や乳輪のただれ、乳頭から分泌物が出るなどの症状があります。
子宮がん
子宮頸がんは20歳代後半から急増する若い世代のがんで、その原因のほとんどは性交渉によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)によるものです。
子宮頚がんは前がん病変や初期の子宮頸がんの場合自覚症状がほとんどありません。
子宮体がんは40歳代後半から増加するがんで、主に女性ホルモンの影響で発生すると言われています。初期から不正性器出血や血の混じった褐色や黒色のおりものが見られます。
卵巣がん
卵巣がんは40~60歳代に多く見られるがんです。
卵巣がんは初期症状が少ないため早期発⾒が難しく、現状では有効な卵巣がん検診は確⽴していません。
早期発見のためには、子宮がん検診の際、卵巣の超音波検査もあわせて受けることポイントです。
出典:国立がん研究センター がん種別統計情報 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/index.html
※上記のグラフはこのデータをもとに作成しています。
乳がん・子宮がんは女性に多いがんですが、この2つは罹患率上位5部位にランクインしています。
特に乳がんは30代後半から急激に罹患率が上昇し、80代前半まで同程度で推移しています。
がんの早期発見のために検診を受けましょう。
⼦宮がんや乳がんは、早期発⾒できれば⽣存率が⾼いがんです。このため無症状でもしっかり検診を受診することが重要です。
乳がんは40歳以上2年に一度、子宮頸がんは20歳以上2年に一度の検診が国によって推奨されています。検診の対象年齢でない場合でも、普段と違った症状がある場合は早めに医療機関に受診しましょう。
がんと治療の両立
万が一がんと診断されても、主治医や職場の上司・人事担当者等と相談しながら治療と仕事を両立していくことが可能なケースも多くなっています。このため、がんになったからとすぐに仕事をやめる判断をするのではく、仕事を続けていくための制度(高額療養費や傷病手当金などのお金に関することや、勤務先の休暇制度や就業規則など)を確認してみましょう。
企業側の支援の方向性(厚労省提言)
女性がかかえる様々な健康課題を軽減し、優秀な人材に健康で長く働いてもらうためにも、以下のような企業側の支援が急務とされています。
- 健康教育・リテラシー向上:生理・更年期・がん検診などを含む教育
- 柔軟な働き方の推進:テレワークや短時間勤務などの制度整備
- 相談体制の強化:保健師・産業医・外部機関との連携
- 管理職・同僚の理解促進:研修や社内ガイドラインの整備
- ジェンダーに配慮した職場づくり:物理的・心理的な職場環境の改善
株式会社メディエイト 保健師 小河原 明子