働く女性の健康課題

1985年の「男女雇用機会均等法」制定後、幾度となく行われた法改正とともに、女性の社会進出はますます増加の一途をたどっています。
しかし女性の労働人口が増えた現代でも、いまだ女性が「働きにくい」と感じる時があります。そのひとつが「女性特有の健康課題」です。

「女性特有の健康課題」は、これまで長い間、話題として取り上げることはタブーとされてきました。女性は「これはしかたのないこと」とあきらめ、男性は「触れてはいけないこと」だと考えられてきました。

しかし「女性特有の健康課題」が仕事に与える影響は大変大きく、女性の労働人口が増えた今、この問題を放置することは企業の大きな損失にもつながります。
女性がいきいきと働き続けるために、企業全体でヘルスリテラシー(※)を高めるとともに、職場で女性の健康支援に取り組むことが重要です。

(※) ヘルスリテラシー:健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力

 

働く女性の増加

[図表1-2-1]によると、 令和4年の女性の労働力人口は3,096万人、
労働力人口総数に占める女性の割合は44.9%と過去最高を更新しています。

労働力人口及び労働力人口総数に占める女性割合の推移

また、[図表1-2-3]にて女性の労働力率を年齢階級別にみると、すべての階級において過去最高の水準となっています。
このことからも、働く女性が増加していることがわかります。

女性の配偶関係、年齢階級別労働力率

【出典】厚生労働省 雇用環境・均等局「令和4年版 働く女性の実情」
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001155643.pdf

 

女性のライフステージと健康・キャリアの課題

女性はライフステージとともに様々な課題に直面します。家庭との両立や女性特有の健康課題が妨げとなり、それまで築き上げたキャリアが停滞したり、離職せざるを得ない状況にまで追い込まれているのが現状です。

ライフステージ 主な健康課題 キャリア上の壁
20〜30代 月経困難症、PMS、不妊 キャリア初期・転職・職場風土
妊娠・出産期 妊娠高血圧症候群、流産リスク 産休・育休復帰支援、管理職機会の逸失
育児期 睡眠不足、メンタル低下 時短勤務・保育と業務の両立困難
更年期 更年期障害、うつ、睡眠障害 モチベーション・再活躍支援

 

女性の健康課題により職場で困った経験

女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状により、職場で困った経験をしたことはある人は56.1%「女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状により、職場で困った経験をしたことはありますか。」という質問に対し、5割以上の方が「困った経験がある」と答えました。

また、下のグラフは健康課題の具体的な症状を示しています。

月経が関わる症状だけでも66.5%となっており、多くの女性の健康課題となっていることが容易に推測されます。

健康課題の約40%は月経関連の症状や疾病

【出典】経済産業省「働く女性の健康推進」に関する実態調査
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/
downloadfiles/H29kenkoujumyou-report-houkokusho-josei.pdf

 

女性の健康課題が仕事に与える影響

女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状、妊娠や出産・妊活などにより、職場であきらめなくてはならないことがあった人は44.3%「女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状(メンタル面の不調を含む)、妊娠や出産・妊活などにより、職場であきらめなくてはならないと感じたことはありますか。」という質問に対し、4割以上の方が「あきらめなくてはならないと感じたことがある」と答えました。

また、その具体的な内容は以下の通りです。
女性特有の健康課題が、女性のキャリアップや仕事に与える影響が大きいことが伺えます。

正社員を続けることやキャリアをあきらめる人がどちらも20%以上

【出典】経済産業省「働く女性の健康推進」に関する実態調査
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/
downloadfiles/H29kenkoujumyou-report-houkokusho-josei.pdf

 

働く女性のウェルビーイングのために企業ができる具体的な支援策

ジェンダーがキャリアの妨げになることなく、女性従業員が健康で長く働けるためには、企業側の支援が不可欠です。
そのために以下のような具体的支援策が考えられます。

① 健康支援 ~フィジカルヘルスの支援~

  • 婦人科検診、乳がん・子宮頸がん検診の促進
  • 月経や更年期に配慮した勤務環境

【具体例】婦人科検診、月経・更年期相談窓口

② メンタル支援 ~メンタルヘルスケア~

  • ストレスチェックと産業医相談体制の整備
  • 女性特有の心理負担に対応したカウンセリング

【具体例】女性産業医や臨床心理士などによる定期相談

③ 制度面 ~キャリア支援・リスキリング~

  • 育休中・復職時のスキルアップ支援
  • キャリア面談、社内メンター制度

【具体例】時短勤務・在宅勤務の柔軟化、キャリア復帰面談

④ 環境整備 ~ワークライフバランスの推進~

  • フレックスタイム、在宅勤務、短時間正社員制度
  • 子育て・介護との両立支援

【具体例】授乳室・休養室の設置、女性専用の福利厚生

⑤ 教育・啓発 ~エンゲージメントと心理的安全性~

  • 上司・同僚による無意識バイアス排除研修
  • 意見を言える職場文化づくり
  • ヘルスリテラシー向上

【具体例】産業医や保健師を活用したヘルスリテラシー向上、ハラスメント研修、ジェンダー平等教育

 

ヘルスリテラシーを高めよう

ヘルスリテラシーとは「健康や医療に関する情報を理解し、評価し、活用する能力」です。

日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査 2018」によると、

ヘルスリテラシーが高い女性の方が、

  • PMS(月経前症候群)や月経不調時における仕事のパフォーマンスが高い。
  • 更年期症状や更年期障害時における仕事のパフォーマンスが高い。

との調査結果が出ています。

これらのことからも、働く女性に関するヘルスリテラシーを高めることは、女性の業務パフォーマンス向上のためにも不可欠といえます。

「生涯を通じた女性の健康支援の強化」は大きな課題の一つであり、国の施策としても進められています。

【出典】日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査 2018」
https://hgpi.org/wp-content/uploads/1b0a5e05061baa3441756a25b2a4786c.pdf

 

ヘルスリテラシーを高めるには、正確な情報源から健康や医療に関する正しい情報を得ることが非常に重要です。
ネットの情報に踊らされることなく、健康のプロである産業医や保健師を上手に活用しながらヘルスリテラシーを高め、従業員の業務のパフォーマンス向上を図りましょう。